【賃金カーブ】「新人と給料がほとんど変わらない」。|勤続10年の看護師が登る坂道は、なぜこんなに緩やかなのか

30秒サマリー

背景と現在地 政府の賃上げ要請を受け、多くの病院で「初任給の引き上げ」が行われました。その一方で、既存職員(特に中堅層)のベースアップは置き去りにされ、新人とベテランの給与差が極端に縮まる現象が起きています。

ニュースの核心 日本看護協会のデータが示すのは、勤続10年の基本給と新卒の差がわずか**「3〜4万円」**しかないという現実。手取りにすれば差は2万円台。責任と業務量は倍増しているのに、報酬だけがデフレを起こしています。

結論 これは「病院がケチだから」だけではありません。経験年数が収益に反映されない医療制度の欠陥です。個人の努力不足ではなく、社会構造がおかしいのだと目を向ける必要があります。

3分サマリー

【数字の真実】10年頑張って、昇給は「月3万6,000円」だけ

「新人の初任給、また上がったらしいよ」。 休憩室でその噂を聞いたとき、自分の明細と見比べて言葉を失った経験はありませんか?

具体的な数字で見てみましょう。 今回の調査データや近年の傾向を分析すると、大卒新人の基本給平均は約21万円前後まで上昇しています。対して、勤続10年の非管理職ナースの基本給平均は、約24万6,000円程度にとどまります。

その差、わずか3万6,000円。 これを10年(120ヶ月)で割ると、1ヶ月あたりの昇給努力は**「300円」にも満たない計算になります。 さらに残酷なのは、ここから税金や社会保険料が引かれることです。中堅になれば控除額も増えるため、銀行口座に振り込まれる「手取り額」で見れば、何もできない新人と、病棟を回しているあなたの差は2万円ちょっと**にまで圧縮されます。 「誤差」と呼ぶにはあまりに重いこの事実は、私たちが積み上げてきたキャリアの価値を否定されたような、静かな絶望を連れてきます。

責任のインフレと、「見えない業務」へのタダ働き

金額の差が縮まる一方で、業務量の差は開くばかりです。 10年目の中堅看護師が背負わされるのは、もはや「看護」の枠を超えた組織運営そのものです。

  • リスク管理の防波堤: 新人が起こしそうなインシデントを予見し、事前に防ぐ。
  • 感情の調整弁: 医師の不機嫌を受け止め、患者や家族の不安をなだめる。
  • 教育という名の無償労働: 自分の業務時間を削って、後輩の成長を支える。

新人が「すみません、記録終わらなくて」と残業代を申請する横で、あなたは自分の業務効率を極限まで高め、定時内に仕事を詰め込んでいます。しかし、その「効率化」や「火消し」の努力が給与明細に反映されることはありません。 結果として、「仕事ができない人ほど残業代で稼ぎ、仕事ができる人が損をする」という、モチベーションを根底から折るような逆転現象が常態化しています。

「熟練の技術」に値がつかない、この国のバグ

なぜ、一般企業のように「成果」や「スキル」で給料が上がっていかないのか。 その根本原因は、病院が冷たいからではなく、日本の診療報酬制度(医療の公定価格)の仕組みそのものにあります。

一般企業なら、ベテラン社員は新人の何倍ものスピードで売上を作り、それが会社の利益となり、給与に還元されます。 しかし医療の世界では、新人が震える手で行う採血も、熟練ナースが痛みなく一発で決める神業のような採血も、国が定める**「点数(売上)」は全く同じ**なのです。

  • 新人: 30分かけて処置をする(売上1000円)
  • あなた: 5分で安全に処置をする(売上1000円)

どれだけ技術を磨き、どれだけ効率よく業務を回して病院に貢献しても、制度上は「新人と同じ売上しか作っていない」とみなされてしまう。むしろ、給与が高い分だけ、病院経営にとっては「コストがかかる存在」として扱われかねない矛盾があります。

「10年働いても給料が変わらない」。 その怒りは正しい。けれど、それはあなたの交渉不足でも、努力不足でもありません。私たちが直面しているのは、**「ケアの質や熟練度を金銭的価値として評価できない」**という、日本の社会構造そのものの限界なのです。この構造を変えない限り、私たちの給与明細に本当の意味での「春」は訪れません。

一次ソース

https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf

(日本看護協会:2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査 結果)

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