【医療安全】「確認しました」の記憶は、なぜ消えるのか?|インシデントを誘発する“6分に1回”の脳内切断

看護ニュース

30秒サマリー

背景と現在地

配薬カートの前で、点滴を準備している最中に鳴るPHS。「はい、〇〇です」。要件を聞いて電話を切り、手元に戻った瞬間。私たちは無意識に、さっきの続きを「再開」したつもりになっています。

ニュースの核心

しかしデータによれば、看護師は「約6分に1回」の頻度で思考を中断されています。人間の脳が中断前の集中状態に戻るには「23分」が必要ですが、現場はそれを待ってくれません。 回復していない脳で、無理やりタスクを継ぎ接ぎする。その「継ぎ目」こそが、インシデントの発生源です。

結論

ヒヤリハットに書くべき対策は、「次はもっと気をつける」という精神論ではなく、「準備中は電話を取らない」という物理的な遮断です。

3分サマリー

背景:壊される「ワーキングメモリ」

私たちは、薬剤の量や患者さんの名前といった情報を、脳の「ワーキングメモリ(作業台)」に一時的に置いて作業しています。この作業台は非常に繊細で、容量も限られています。 「医師に話しかけられる」「アラームが鳴る」。そのたった一瞬の中断が、作業台の上の情報を消し去ります。 そして恐怖なのは、「情報が消えたことに気づかないまま、作業を再開してしまう」ことです。これが「思い込み」や「確認省略」の正体です。

ポイント:データが証明する“魔の空白”

1. 6分ごとの強制リセット 看護業務の研究では、1時間に10回以上の中断が発生しています。 複雑な計算や照合をしている最中にリセットボタンを押され、直後から「続き」を求められる。この繰り返しが、脳に認知的な負荷(Cognitive Load)を与え続けます。

2. 23分の回復ラグが埋まらない カリフォルニア大の研究(Gloria Mark氏ら)が示す「集中力の回復に23分かかる」という事実は、医療現場にとって絶望的です。 次のタスクは23分も待ってくれません。私たちは「集中力が戻っていない状態」で、命に関わる判断を次々と下さざるを得ない環境にいます。

3. 再開ラグの罠 中断から元の作業に戻る際、「どこまでやったか」を思い出す時間を「再開ラグ」と呼びます。 インシデントの多くは、この再開ラグの瞬間に、「混ぜたはず」「確認したはず」という偽の記憶が入り込むことで発生します。

今後の見通し:個人の注意より、環境の遮断へ

「確認不足」を個人の責任にする時代は終わりつつあります。 海外や一部の先進的な病院では、配薬中や記録中の看護師が着用する「話しかけないでくださいベスト(Do Not Disturb Vest)」の導入や、特定の時間帯はPHSをステーションで預かる「集中タイム」の運用が始まっています。 ミスを防ぐのは、あなたの意志力ではなく、あなたを「一人にする」仕組みです。

一次ソース

University of California, Irvine (Gloria Mark et al.) No Task Left Behind? Examining the Nature of Fragmented Work

https://ics.uci.edu/~gmark/chi05time.pdf

Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ) Distraction and Interruption (Patient Safety Network)

https://psnet.ahrq.gov/primer/distraction-and-interruption

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