30秒サマリー
背景と現在地
2010年代に爆発的に普及した「PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)」。福井大学医学部附属病院が開発したこのシステムは、またたく間に全国へ広がり、看護協会の調査やメディアのアンケートによると、現在では約35%(3人に1人)のナースが導入病院で働いている計算になります。
ニュースの核心
しかし、導入から10年以上が経過し、現場からは「疲れ」の声も聞こえ始めています。「ペアの相性が辛い」「常に監視されているようで息が抜けない」。一度は魔法の杖と思われたシステムも、運用期間が長くなるにつれて、その副作用が表面化しつつあるのです。
結論
「PNSをやめる」という選択をする病院も出てきました。流行としての導入期は終わり、これからは各病院の風土に合わせてカスタマイズする「PNS 2.0」とも呼べる適正化のフェーズに入っています。
3分サマリー
福井発、全国へ。「PNS」が駆け上がった10年
PNSは、2009年に福井大学医学部附属病院で開発された看護方式です。 二人の看護師がペアを組み、対等な立場で(パートナーシップ)看護業務を行うこのシステムは、当時の医療現場が抱えていた「超過勤務の削減」と「新人教育の効率化」という2つの難問を同時に解決する画期的なモデルとして注目されました。
その普及スピードは凄まじいものでした。 開発元の福井大学医学部附属病院のデータによると、2016年の時点ですでに見学施設数は496施設、延べ見学者数は約9,000人に達しています。 また、看護師向けメディア『看護roo!』が2023年に行ったアンケート調査では、「現在PNSを導入している」と回答したナースは35%に上りました。 これは、日本の病院の約3割、つまり3人に1人のナースがPNSの環境下にいることを示しており、もはや「新しい試み」ではなく「スタンダードな選択肢」として定着したと言えます。
「ずっと一緒」が産むストレスと、隠れた副作用
しかし、普及率がピークに達すると同時に、現場からは「運用疲労」とも呼べる課題が浮き彫りになってきました。 PNSの理念は素晴らしいものですが、それを運用するのは生身の人間だからです。
- ペアとの相性問題(人間関係): 「今日のペアは誰か」で、その日の業務の質やメンタルが大きく左右されます。特に、威圧的な先輩と組む後輩の萎縮や、動きの遅いペアへのイライラなど、逃げ場のないストレスが離職の引き金になるケースも報告されています。
- 「監視」される息苦しさ: 常に二人で行動するため、「サボれない」というメリットは、「一瞬たりとも気が抜けない」というデメリットと表裏一体です。一人で思考を整理したり、少しペースを落として患者さんと向き合ったりする「余白」が消滅してしまったのです。
- 思考の依存(リンゲルマン効果): 本来は相互補完が目的ですが、「相方が確認したからヨシ」という依存心が生まれ、かえってダブルチェックが形骸化するリスクも指摘されています。
「完全導入」から「いいとこ取り」へ
こうした背景から、最近では「PNSの解除(廃止)」や「修正」に踏み切る病院が増えています。 これはPNSの敗北ではありません。現場の実情に合わせた「最適化」が進んでいるのです。
- ハイブリッド型の運用: 「新人や処置の多い日勤帯はペアで動くが、夜勤やリーダー業務は個人の裁量で動く」といった、時間帯や業務内容による使い分け。
- ペアの固定制廃止: 年間固定ペアではなく、日替わりやチーム単位での緩やかな連携に留めるなど、人間関係の固定化を防ぐ運用。
今後の見通し:システムに使われないために
PNSはあくまで「ツール(道具)」です。 「PNSだから二人でやらなきゃいけない」と手段が目的化してしまっては本末転倒です。 これからの看護管理は、「PNS導入率」という数字を追うのではなく、「そのシステムでスタッフが笑顔で働けているか」という定性的な評価に重きを置くことになるでしょう。 私たち現場のナースも、「システムが合わない」と嘆くだけでなく、「この部分はペアで、この部分は一人でやりたい」と、働きやすさを提案していく姿勢が求められています。
一次ソース
- 福井大学医学部附属病院: PNSの成り立ち・活動(見学施設数データ)
- 看護roo!: あなたの病院では「PNS」を導入していますか?(2023年世論調査)


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