【中医協】決定権を持たない「専門委員」という限界|なぜ170万人のナースの席は用意されないのか

30秒サマリー

背景と現在地

私たちの給料や働き方を決める最高意思決定機関「中医協(中央社会保険医療協議会)」。そこには医師、歯科医師、薬剤師の代表が「委員」として鎮座し、国の予算配分を巡って熱い議論を交わしています。

ニュースの核心

しかし、医療現場で最大勢力であるはずの看護師は、そこにいません。正確には「専門委員」というオブザーバー席に座らされており、議論に参加できても、最後の決決(投票)に参加することは許されていません。

結論

これは単なる名誉の問題ではありません。「投票権がない」ということは、予算の配分を決める際、意見が後回しにされるリスクを意味します。現場を支える「数」の力が、まだ「政治」の力に変換されていない現実がここにあります。

3分サマリー

1号側・2号側の「鉄の掟」と、蚊帳の外の私たち

中医協は、日本の医療制度の心臓部であり、巨大な交渉のテーブルです。 ここには明確な構造が存在します。片方には「支払側(1号委員)」と呼ばれる、健康保険組合や経団連など「お金を払う側」の代表が座ります。もう片方には「診療側(2号委員)」と呼ばれる、医療サービスを「提供する側」の代表が座ります。そして、その真ん中で「公益委員(学者など)」が調整役を務めるという三すくみの構造です。

問題の本質は、この「診療側(2号委員)」の構成メンバーにあります。 ここには日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の代表者が正式な委員として名を連ねています。彼らはそれぞれの業界の利益を守り、診療報酬というパイを確保するために、「投票権(議決権)」という強力な権限を持って交渉に臨んでいます。

一方で、看護師は「専門委員」という枠組みです。 これは「専門的な意見が必要なときは呼ぶから、意見を言ってね」という、いわばアドバイザーの立ち位置です。 議論が白熱し、最終的に「診療報酬を上げるか下げるか」を決める多数決や政治的な決着が必要になった瞬間、私たちの手はカウントされません。 「メニュー(政策)について希望を言うことは許されるが、注文(決定)するのは別人」という構造が、何十年も変わらず続いています。この「決定権の不在」こそが、看護師の地位向上を阻む見えないガラスの天井となっています。

「170万人 vs 32万人」のねじれ現象

数字で見ると、この構造の歪さはより際立ちます。

  • 看護職: 約170万人以上(医療界最大勢力)
  • 薬剤師: 約32万人
  • 医師: 約34万人

なぜ、私たちの5分の1しかいない薬剤師が投票権を持ち、私たちが持てないのか。 その背景には、明治時代から続く「医療ヒエラルキー」と「独立した開業権・調剤権の有無」があります。 医師や歯科医師、そして薬局を持つ薬剤師は、「経営者(事業主)」としての側面を強く持っています。彼らは自らの技術や商品を売り、その対価を得るというビジネスモデルが確立しており、政治的なロビー活動の歴史も深いのです。

対して看護師は、長く「診療の補助」と定義され、技術料(手術代や調剤代のような個別の値段)ではなく、「入院基本料」というセット料金の中に埋没させられてきました。 「看護師は病院の設備の一部」という古い価値観が、中医協の座席表にいまだに色濃く残っています。数が多くても、あくまで「雇われる側」であり「経営主体」ではないという解釈が、投票権を持たせない口実とされてきたのです。

「席がない」ことで私たちが失っているもの

「たかが会議の席一つでしょ?」と思うかもしれません。しかし、この「不在」は私たちの財布を直撃しています。

例えば、新しい処置やケアの点数を新設したいときを想像してください。 投票権を持つ団体は、「これを認めないと採決で反対するぞ」と厚労省に対して強い交渉力(バーゲニング・パワー)を行使できます。 しかし、投票権のない日本看護協会などの職能団体は、「現場は困っています、お願いします」と要望書を出し、理解を求めることしかできません。

結果として、限られた医療費の財源(改定率)を配分する際、「声の大きい(投票権のある)職種の技術料」が優先され、看護師の処遇改善や配置基準の見直しは後回しにされやすくなります。 「看護師の給料は、診療報酬(公定価格)で決まる」。 その価格決定プロセスに決定権がないということは、私たちの生活のハンドルを、善意の他人に握られていることと同じなのです。

今後の見通し:内側から変えるための「数」の力

日本看護協会は長年、「看護職代表を正委員(2号委員)に!」という目標を掲げ、粘り強い活動を続けています。 まだ壁は厚いですが、変化の兆しは確実にあります。 「特定行為研修」「タスク・シフト/シェア」の推進により、看護師が医師の包括的指示の下、独自の判断で動く領域が増えているからです。これは看護師が「単なる補助者」という枠組みを突破し、自律した専門職であることを国に認めさせるための実績づくりでもあります。

私たちが政治や選挙に関心を持つこと。 それは遠い永田町の話ではなく、中医協のテーブルに「椅子」を一つ増やし、自分たちの働き方を自分たちで決める権利を取り戻すための、最も現実的で必要な手段なのです。

一次ソース

厚生労働省:中央社会保険医療協議会委員名簿

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