30秒サマリー
今の医療現場には、夜勤・交代制勤務特有の疲労が、誰にも気づかれないまま静かに降り積もっています。
その状況を現場の「工夫」や「思いやり」だけでカバーするのではなく、「労働基準法」という国全体のルールを書き換えることで解決しようと、日本看護協会が要望を出しました。これは、ゴールの見えないマラソンコースに、必ず止まらなければならない給水所を設置するような変化です。
現場の善意に頼る時代を終え、休息を「義務」として確保する動きが、法改正という形で具体的になり始めています。
3分サマリー
背景
現在の労働基準法は、工場などで働く「朝始まり夕方終わる」固定時間労働をモデルに設計されており、看護師のような「24時間を繋ぐ交代制勤務」については、明確な定義や規制が乏しいのが実情です。 これまで勤務間インターバル(勤務終了から次の勤務までの休息時間)の確保は、あくまで各病院の「努力義務」に委ねられてきました。しかし、努力だけでは埋まらない人員不足の溝があり、結果として「日勤深夜」や「短いターンオーバー」が常態化しています。
この「法的な空白」こそが、看護師の健康と医療安全を脅かしている原因だという前提が、今回の要望の出発点です。
ポイント
日本看護協会が求めている主な論点は、以下の通りです。
- 勤務間インターバルの義務化
- これまでの「努力目標」ではなく、必ず一定時間(例えば11時間など)の休息を空けることをルール化しようとしています。
- 通勤や睡眠、家事の時間を引いても、体を休める時間を物理的に確保するためです。
- 結論:「日勤→深夜入り」のような、身体のリズムを無視したシフトが組めなくなります。
- 夜勤回数・時間の上限設定
- 月間の夜勤回数や、1回の拘束時間(2交代制の16時間など)に上限を設ける要望です。
- 長時間労働は集中力を奪い、医療事故のリスクを高めることが多くのデータで証明されています。
- 結論:安全を守れる「限界ライン」を、個人の感覚(大丈夫・頑張れる)ではなく、明確な数字で引くことになります。
- 「交代制勤務」の法的定義
- 労働基準法の中に「交代制勤務」という働き方を明記し、特有のルールを適用させる狙いです。
- 結論:看護師の働き方が、法律上の「例外」から「守られるべき対象」へと変わります。
今後の見通し
もしこの法改正が実現すれば、師長や管理職はシフト作成において、複雑なパズルを解くような難しさに直面するでしょう。人員が増えないままルールだけが厳格化すれば、日勤帯の人数を削らざるを得ない場面も一時的に出てくるかもしれません。 しかし、長い目で見れば「無理なく働ける環境」が整うことで、離職が減り、結果として人員不足が解消に向かう光も見えます。
現場の痛みを伴う過渡期を経て、看護師が「休むこと」に罪悪感を持たなくて済む未来が待っています。

コメント